私の大切な本

16歳の頃に宮下奈都さんの「羊と鋼の森」の1ページ目を書店で読んだ際、「私は本の仕事をしたい」泣きそうになったのを覚えている。そこから私は装丁家を夢に、デザインを学ぶ大学に入ったが「私は本当に装丁家になりたいの?」「もっといい仕事あるんじゃない?」など思うことが増えた。最近は将来の夢は装丁家とも言わなくなっていた。

昨日、講義で原民喜さんを紹介された。原民喜さんは幼い頃から「自分の周囲の世界が崩壊する」と思っていた。そのせいか、挨拶や感謝の言葉も言わない極端な無口だったそうだ。原民喜さんの人生、被爆した際の詩、そして死に方、全てが私にとって衝撃的でうまく言葉にすることができない。詩は本当に苦しかった。私は19歳だから、もちろん戦争なんて経験していないが、それでも脳内で悲惨な情景が浮かぶ。

先生が最後に「砂漠の花」を紹介した。

明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きびしく深いものを湛へてゐる文体、夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体……私はこんな文体に憧れてゐる。」

原民喜 沙漠の花)

はっとした時、16歳の自分がそこにいた。「羊と鋼の森」に出てくる言葉だ。しかも、絶対に忘れたくないと思った言葉で、常に持っている手帳にメモをとっていた。それから家に帰って急いで「羊と鋼の森」を開き、何度も確認した。私にとって大切な本なので、まさか大学の講義で再び会うとは思わなかった…。とても嬉しかった。

その時、自分はやっぱり本と繋がって生きていくんだろうなと確信した。もうそういう運命なんだと思う。前々から買おうか悩んでいた鈴木成一さんの本3冊も夜中に購入した。時間は少ない。頑張ろう。その本の個性を表現できる装丁家になるためなら、頑張るぞ。